火曜日, 5月 04, 2010

mustard

 気がつくと、マスタード術後の症例を沢山経験している。全米でもたしかそんなに数はいないはずだが、この2年間でマスタード術後の患者は10人は診た。

 大血管転移症(D-TGA)は先天性心疾患の一つで、右心と左心が入れ違っている。右心から大動脈が出て、左心から肺動脈が出ているので、肺循環と全身循環が完全に分離していて、ほっておけば生後すぐに死亡する。

 マスタード術は心房内を立体的に作り替えて、右房から左室へ、左房から右室へと血流を変えるという非常に込み入った手術だ。心房置換術とも呼ばれる。生後すぐには姑息的なシャント術を行って、マスタード術は患者が3−7歳くらいに成長してから行う。

 この術式は、1980年代にとても流行った。後に、大動脈と肺動脈をそれぞれ心臓から切り離して、反対に付け替えるという動脈置換術が技術的に可能になったので、マスタード術は廃れた。

 ただ、この1980年代にマスタード術を受けた患者が成人(20-40代)して、マスタード術に関連する様々な問題を抱えて循環器内科に入院してくる。多いのは、心房粗動などの上室性頻拍と心不全だ。

 マスタード術では、右心室から全身に血液を送り出すようにデザインされている。従って、マスタード術後の心不全は、解剖学的には右心不全だ。この症例がくると、インターンやレジデントは自分で図を書いて解剖を理解しようと四苦八苦する。

 こうした症例は、心房の解剖が複雑すぎてSwan-Ganzを簡単に入れられないし、左室補助装置(LVAD)も適応にならないので、結局心臓移植を待つしかない。

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